ゴー宣DOJO

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笹幸恵
2015.5.14 05:00

観光地化と戦跡

以前、父の日にパンダ柄のネクタイを贈りました。

父は喜んでくれましたが、そういえば

そのネクタイをしているとこ、見たことない。

父よ・・・。

高森先生のブログで、ふと思い出しました。

 

 

さて、東浩紀さんの『弱いつながり』を拝読しました。

面白いし、わかりやすくて、あっという間に読了です。

タイトルからして、裏切られました。

私はてっきり「弱いつながり」=ネット

だと思って、それを批判するのかと思っていたのですが、

さにあらず。

まるで逆で、目からウロコが落ちました。

 

東さんは「福島第一原発観光地化計画」という

プロジェクトを立ち上げています。

もっとも、第一原発を観光地化しようというと、

どこかに抵抗がある。

観光なんて、不謹慎じゃない?

という気持ちになります。

もちろんそれは、東さんの想定内。

 

ただ、読み進めていくうちに、私は

自分が訪れた戦跡地を思い出していました。

「観光地化」によって得られるものは、確かにあった。

まず思い出したのは、初めてのガダルカナル島。

2万人もの将兵が亡くなっており、

その凄惨な状況から、私はどこか

おどろおどろしいイメージを抱いていましたが、

行ってみたら全然違いました。

海も、空も、密林も、さわやかすぎたのです。

さわやかすぎて、とまどいました。

でもヴィル村という地にある戦争博物館

(といっても、屋外に日米の兵器を並べているだけ)を

訪れて、そのさわやかさは吹っ飛びました。

 

そこには、日本軍の大砲がありました。

それだけなら、「おおお」とテンションが上がるのみ。

でも砲身に、こう刻印されていたのです。

(右から読んでね)

 

農可糎十式二九

NO11

廠工阪大

製年十和昭

 

私はこの刻印にひどく心を打たれました。

見たことはないですが、大阪工廠の工場で、

技術者や徴用工員たちが汗を流して

大砲を製造している、そんな光景まで

この刻印から浮かび上がってくるようでした。

そこで初めて、5000キロも離れた日本から

ガダルカナルに上陸した兵士たちが本当にいたのだ、

このカノン砲もはるばる海を越えてやってきたのだ、

と肌身に沁みて感じることができたのです。

さわやかな南国の風と、日本語が刻印された大砲の

ギャップが、さらにその思いを強くしました。

 

これは現地の人が観光客目当て、

現金収入目当て(身もふたもないですが)で

自分の敷地に兵器を展示していたからこそ

感じ得た私の実感でした。

 

韓国のDMZ(非武装地帯)もまさに観光地。

板門店への出入りのときこそ緊張が強いられますが、

それ以外はテーマパークのような感じです。

北朝鮮が韓国に向けて掘った「第三トンネル」など、

トロッコみたいな乗り物で地下まで行けます。

DMZ内で育てた豆のお菓子がお土産の定番。

こんなにチャラくていいのかね!?

 

でもチャラチャラの中に、手続きが厳重だったり

「下手な動きしたら死にますよ」というガイドの

脅しがあったりするので、緊張感はいやがうえにも

増してきます。そうして人々の感情を揺さぶっていく。

展示などを見ているうち、いつの間にか韓国人の気持ちに共感し、

「北朝鮮けしからん」と思うようになっているのですから、

韓国はうまいことやるなあと思いました。

 

本書の副題は「検索ワードを探す旅」。

私はネットにつながっていないほうがホッとする、

完全なるアナログ人間なので、

そこまで「検索」が重要なのかな、という部分はあります。

仕事の能力が検索する力にあるとは思いません。

でも、世の中はそういう方向に動いているのかなあ。

 

あまりまとまりがありませんが、読後感です。

 

「父の日」「プレゼント」という検索ワード以外で

探してみたら、何かいいもの見つかるかなあ。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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